明治から昭和にかけて活動した水彩画家、丸山晩霞が描いた作品を紐解くと、その作品群の中に多様な表情を読み取ることができます。
「丸山晩霞 日本と水彩画」展のみどころとして、晩霞がどのように風景画を描いたか、その表現の特徴を一部ご紹介します。
鹿沢温泉は浅間山の麓、群馬県嬬恋村に位置します。湯治場の下を流れる川は、吾妻川の源流にあたる湯尻川です。晩霞は幼少時に母親に連れられて鹿沢温泉を訪れ、その後も長くこの温泉に親しんできました。
作品を見ると、川の上流から下流に向かって、角のとれた大きな岩や石が連なっています。丸く青みを帯びた石があれば、平べったい黒っぽい石もあり、一つ一つが塗り分けられ、細やかに陰影がほどこされていることが分かります。山中の渓流沿いに位置する木造の宿の壁や柱の描き込みは、その歴史、伝統と鄙びた滋味を的確に表現し、同時に画家の、この建物への愛着を感じさせます。季節は初秋でしょうか。山の木々は徐々に紅く色づき始めていますが、まだ緑が勝っています。宿から出て、渓流へ向かう二人の女性客の姿には、それほど寒くはない季節の余裕が表れているようです。実景の観察に基づく、緻密な筆使いによる彩色は、晩霞の初期作品に特徴的な表現です。
作品を見ると、川の上流から下流に向かって、角のとれた大きな岩や石が連なっています。丸く青みを帯びた石があれば、平べったい黒っぽい石もあり、一つ一つが塗り分けられ、細やかに陰影がほどこされていることが分かります。山中の渓流沿いに位置する木造の宿の壁や柱の描き込みは、その歴史、伝統と鄙びた滋味を的確に表現し、同時に画家の、この建物への愛着を感じさせます。季節は初秋でしょうか。山の木々は徐々に紅く色づき始めていますが、まだ緑が勝っています。宿から出て、渓流へ向かう二人の女性客の姿には、それほど寒くはない季節の余裕が表れているようです。実景の観察に基づく、緻密な筆使いによる彩色は、晩霞の初期作品に特徴的な表現です。
晩霞は1911年から1912年にかけて、イギリス、イタリア、スイスなど、ヨーロッパの各地を旅行し、スケッチを重ねました。この旅行の目的について晩霞は、ヨーロッパの山岳風景の観察及び、ヨーロッパの「山岳画家」の作品の観賞、目に映る現地の風物を「感ずるまま」に「写生」すること、と述べています。植物の愛好家である晩霞は、イギリスでは二つの王立植物園―エジンバラ植物園とキュー植物園を訪問します。この滞欧時に制作された作品の目録には「倫敦キュー植物園、午前の光」、「倫敦キュー植物園、初夏の午前」と記されたものが確認できる一方、エジンバラ植物園で描かれたことが明確な作品名は確認できません。そのため本作はロンドン南西部のキュー王立植物園を描いた作品なのかもしれません。
イギリスで晩霞と行動を共にした竹中政一は、エジンバラ植物園の園長と晩霞との対話を書き記しており、そのエピソードからは植物に対する晩霞の深い造詣が伝わってきます。それほど深く植物を愛した晩霞による、植物園のスケッチですが、本作では植物の詳細な観察よりも、その場で「感ずるまま」に印象を捉えることに主眼が置かれています。水気を含んだ絵筆による、淡くけぶる水蒸気の描写、一面に咲く花々を表す点描は、特定の時間の光と湿度を見事に捉えており、緻密な風景画とは異なる魅力を放っています。
イギリスで晩霞と行動を共にした竹中政一は、エジンバラ植物園の園長と晩霞との対話を書き記しており、そのエピソードからは植物に対する晩霞の深い造詣が伝わってきます。それほど深く植物を愛した晩霞による、植物園のスケッチですが、本作では植物の詳細な観察よりも、その場で「感ずるまま」に印象を捉えることに主眼が置かれています。水気を含んだ絵筆による、淡くけぶる水蒸気の描写、一面に咲く花々を表す点描は、特定の時間の光と湿度を見事に捉えており、緻密な風景画とは異なる魅力を放っています。
画面を占めるのは、白い水泡を放ちながら激しく流れ落ちる滝です。これは晩霞が北米を旅した際に目にした風景と考えられます。実は晩霞は、ナイアガラの滝を観光していたのです。黒煙をうっすらと吐きながら進む船は、白い瀑布の中に向かって進行しています。晩霞自身もまたこの船に乗って遊覧(と言えるほど穏やかなものではありませんが)を楽しみました。
本作は《滝三景》と題された三幅対の一幅であり、残る二幅はそれぞれ、長野県の蒲田川の峡谷、スイスのグリンデルワルドの滝の風景画です。そしてこれらはいずれも水彩絵具で絹地に描かれています。晩霞は特に1910年代以降、絹本に水彩画を描き、屏風や掛軸に表装する、ということを盛んに行いました。その理由の一つには、晩霞が、水彩画は日本画に近しいと考えていたことが挙げられます。その上で晩霞は、水彩画も日本画同様、筆の力強さを活かして描くべきである、とも考えました。本作もまた、「中国の深山幽谷」と言われれば信じてしまいそうな大胆な構図、水の流れの素早さを感じさせる思い切った筆さばきが見られます。
本作は《滝三景》と題された三幅対の一幅であり、残る二幅はそれぞれ、長野県の蒲田川の峡谷、スイスのグリンデルワルドの滝の風景画です。そしてこれらはいずれも水彩絵具で絹地に描かれています。晩霞は特に1910年代以降、絹本に水彩画を描き、屏風や掛軸に表装する、ということを盛んに行いました。その理由の一つには、晩霞が、水彩画は日本画に近しいと考えていたことが挙げられます。その上で晩霞は、水彩画も日本画同様、筆の力強さを活かして描くべきである、とも考えました。本作もまた、「中国の深山幽谷」と言われれば信じてしまいそうな大胆な構図、水の流れの素早さを感じさせる思い切った筆さばきが見られます。