《北京官話》(1940 年、油彩・カンヴァス)は、中村研一の戦前期を代表する作品の一つながら、長らく所在が定かではありませんでした。しかし2019 年に現存が確認され当館へと寄贈いただきました。大喜びの当館では《北京官話》新収蔵を記念した所蔵作品展を今春に計画していました。確認される限りでは、実に80 年振りの公開展示になるはずでした。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大により春の記念展示はやむなく中止を余儀なくされました。既に展示作業も完了し来館者に見てもらう日を待つ《北京官話》。仕方ないとはいえ美術館スタッフは忸怩たる思いでした。その思いから半年、さらに展示内容を充実させ、本展が実現しました。春の展示から内容をさらに充実させ、中村研一が描いた様々な人々の姿をご覧いただきます。
図1《北京官話》1940年、油彩・カンヴァス
本展の目玉はなんといっても《北京官話》です。陽光の差し込むサンルームでしょうか、組木の模様が印象的な床材の室内に置かれた長椅子。その上にくつろいだ様子で座る女性の面立ちは差し込む陽光で逆光になり、やや愁いを帯びたような微笑みを浮かべています。
ラベンダー色の上に赤と黒の大柄の花模様がモダンなワンピースは立て衿と太ももあたりのスリットによっていわゆるチャイナドレスであることがわかるでしょう。差し込む光で足もとがほんのりと透けています。
本作は紀元二千六百年奉祝展覧会という1940(昭和15)年に開催された非常に大規模な展覧会のために制作され好評を博した作品でした。
ラベンダー色の上に赤と黒の大柄の花模様がモダンなワンピースは立て衿と太ももあたりのスリットによっていわゆるチャイナドレスであることがわかるでしょう。差し込む光で足もとがほんのりと透けています。
本作は紀元二千六百年奉祝展覧会という1940(昭和15)年に開催された非常に大規模な展覧会のために制作され好評を博した作品でした。
図2《フランス婦人像》1928年、油彩・カンヴァス
本展には《北京官話》以外にも見どころがたくさん。こちらの《フランス婦人像》は、実は幻に終わった春の展示には出展されていませんでした。理由は作品の修復を行っていたためです。修復が完了しきれいになってからの初お目見えとなります。
本作は1928(昭和3)年作、当館でも数少ない、中村研一のフランス滞在期に制作された作品です。モデルをつとめているのはロシア系フランス人の踊り子だという話を聞いたと中村研一の妻・富子夫人が後年言及しています。
本作は1928(昭和3)年作、当館でも数少ない、中村研一のフランス滞在期に制作された作品です。モデルをつとめているのはロシア系フランス人の踊り子だという話を聞いたと中村研一の妻・富子夫人が後年言及しています。
図3《出雲飾皿 自画像》1954年
中村研一が自身の姿を捉えた自画像も複数展示します。その中にはこんな一風変わった作品も。なんと大皿に描かれた自画像です。中村研一は小金井移住後作陶に興味をよせ、各地の窯元を訪ねて絵付けや手びねりによる作陶に取り組みました。
なかなかインパクトのある本作には実はペアになる大皿があり、そちらも今回併せて展示します。ペアの方に描かれているのは果たして誰か…?それはぜひとも展示室で実物を確かめてみて下さい。
なかなかインパクトのある本作には実はペアになる大皿があり、そちらも今回併せて展示します。ペアの方に描かれているのは果たして誰か…?それはぜひとも展示室で実物を確かめてみて下さい。
この他にもたくさんの人達が展示室で来館者の皆様をお待ちしております。新型コロナウイルス感染拡大を防止するため、通常と異なる開館時間、また物販の制限などを行っておりますが、ぜひともお越しください。
※この他にもアルコール消毒、お手洗いでのせっけん使用の励行などの対策を行い、また来館者の方へ受付票の記入をお願いしております。
《北京官話》というタイトルは、中国清代、官僚を輩出した支配階級の用いた言葉(官話)に由来しています。清代以前は、南京語(南京官話)を基にしていた中国の標準語は、北京語の発音を用いる北京官話に取って代わられていきました。本作のタイトルは、日本人にとって「いかにも中国らしい響きをもつもの」としての「北京官話」の意味を、「チャイナドレス」というモティーフに重ねるものと言えるでしょう。
※本ページ内に掲載されている作品は全て小金井市立はけの森美術館所蔵です。