今回の「二人のスケッチ―藤島武二と中村研一―」は、実は二年ぶりの企画展です(当館では外部からの借用作品を含み、「今回はこれ!」というテーマを決めた展示のことを企画展と呼んでいます)新型コロナウイルス感染症の世界的流行に伴い、2019年の秋の企画展を最後に企画展の開催を見合わせていました。開催計画がなくなってしまったものもあり、涙にくれたりもしました。
そんなこんなで久しぶりの企画展である本展では、公益財団法人大川美術館所蔵の藤島武二(1867-1943)スケッチと、はけの森美術館所蔵の中村研一(1895-1967)スケッチを通して、スケッチの魅力を伝えます。総展示作品数は100点超で、当館の企画展展示数としては突出したボリュームになりました。たくさんの展示作品の中から、いくつかの作品を見どころとしてご紹介します。
藤島武二《人物》1901年頃 色鉛筆・紙
公益財団法人大川美術館所蔵
本展のメインビジュアルにも使われている藤島武二の婦人像です。現物は思いの外小さいのですが、とても魅力的なので、展示室で見過ごさないように気を付けてください。制作年代は1901年頃と見られ、藤島がちょうど「みだれ髪」の装丁などを手掛けていた三十代の前半期に相当します。日本髪の女性の意味ありげな視線と頬に指をあてたしぐさが、想像をかき立てます。
藤島武二《婦人像》鉛筆、パステル・墨
小金井市立はけの森美術館所蔵
今回、実は1点だけ「はけの森美術館所蔵の藤島武二作品」が出展されています。それがこちら。ピンク色の「チャイナドレス」とうっすら赤みを帯びた目元がいかにも艶やかな印象です。中村研一は東京美術学校時代、岡田三郎助教室だったのですが、同時期に教官だった藤島のことも「師」として生涯敬慕しました。当館に入った経緯は実ははっきりしないのですが、尊敬する師の作として中村自身がもらい受けたものかもしれません。
中村研一《飛行機》1941年頃 鉛筆、インク、水彩・紙
小金井市立はけの森美術館所蔵
こちらは中村研一作品。見ての通り飛行機、それも日本海軍の戦闘機を描いたものです。かなり細かく機体色についてのメモがあります。機体の下にはフローターがついているので水上機(離着水できる飛行機)であり、推定される型式から日中戦争期に運用されていたものを、実際に目にしてのスケッチではないかと思われます。
中村研一《瀬戸絵付灰皿 パイプ図》
小金井市立はけの森美術館所蔵
「スケッチの展覧会なのに、灰皿?そもそもこれ、既製の“せともの”じゃないの?」と不思議に思うかもしれません。よく見てください、なんと、既製の灰皿に中村研一が上絵でパイプのイラストを施したもの。釉で描いた後、ちゃんと焼成されています。“ma Bonne Pipe” は「私の素敵なパイプ」という意味。下にちゃんとイニシャル入り。
この他にもたくさんのスケッチが展示されています。秋の深まるはけの森美術館にぜひお越しください!
「美術の森」緑地の紅葉も楽しめるかも。